マンションなど賃貸住宅では、退去時のトラブルが大変多く発生しています。
退去時のトラブルを防ぐための指針として、「原状回復ガイドライン」がありますが、内容まで確認されている人は少ないのではないでしょうか。
退去時のトラブルを避けるには、やはりガイドラインの内容を承知しておくことも大切です。
今回は、賃貸物件における「原状回復ガイドライン」の内容や、退去時のトラブルが多い壁紙の補修方法やトラブルの解消方法などを解説します。
賃貸マンションは壁紙などに注意が必要!
賃貸マンションなどの入居者は退去する際に「原状回復義務」があり、原状回復の費用負担についてのトラブルが絶えません。
以下に「国民生活センター」に寄せられたトラブル事例を挙げてみました。
『築30年の1DKマンションに2年半入居。タバコの黄ばみが原因でクロス・ドア・クッションフロアの原状回復費用18万円請求された』
『3年間住んだマンションを退去。立ち合いも終わっていないのに、クロス・畳の張り替え費用とハウスクリーニング費用を請求すると言われた』
『入居前からあった傷や汚れの原状回復費用を請求された』
『高額なクリーニング費用を請求され、納得がいかない』
退去時に以上のようなトラブルがあっては、転居して新しい生活への第一歩に水を差されるような状況になってしまいます。
特に壁は、住宅の中でも汚れや傷が目立ちやすい箇所です。
トラブルを回避するためには、入居の前から部屋の状態や契約書の内容をよく確認しておくことの他に、原状回復ガイドラインの内容を理解し、賃借人の負担が大きくならないように、借りた部屋はできるだけきれいに使うことを心がけるようにしましょう。
「原状回復ガイドライン」における壁紙の入居者の負担範囲
国土交通省から公表されている「原状回復ガイドライン」は、賃貸住宅での退去時トラブルを未然に防ぐため、また円滑に解決するために、原状回復に伴う費用負担のあり方について妥当と考えられる一般的な基準をガイドラインとしてまとめられたものです。
「原状回復」とは、入居者が借りた当時の状態に戻すことではなく、「賃借人の居住・使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失・善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義されています。
【国土交通省住宅局:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン】
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf
わかりやすくいえば、経年劣化や通常使用における損耗は賃貸人の負担となり、それ以上の損耗(故意・過失・善管注意義務違反により)は賃借人の負担になるということです。
壁・天井のクロスの損耗や毀損についての賃貸者・賃借者の負担事例は以下になります。
通常の使用で発生すると考えられる事例
(賃貸者の負担となる) |
明らかに通常の使用とはいえない事例
賃借人の手入れ・管理が悪く発生・拡大したと思われる事例 (賃借者の負担となる) |
・テレビや冷蔵庫の裏の黒ずみ(電気ヤケ)
・エアコン(賃借人所有)の設置による壁のビスの穴や跡 (テレビ・冷蔵庫・エアコン等は生活必需品なので通常の使用と考えられる)
・画鋲やピンの穴 (下地ボードの張り替えが不要なもの)
・壁に貼ったポスターや絵画の跡 (クロスの変色の原因は日照などによる自然現象と考えられる)
・日照によるクロスの変色 (日照は通常の生活で避けられものと考えられる)
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・タバコのヤニによる変色や臭いの付着
・釘穴やネジ穴 (下地ボードの張り替えが必要なもの)
・結露を放置したことによるカビやシミの拡大 (拭き取るなどの手入れを怠ったと判断される)
・台所のクロスの油汚れ (使用後の手入れが悪く油やスス汚れは通常の使用を超えると判断されることが多い)
・クーラーの水漏れを放置したため壁が腐食した場合 (賃借人所有・賃貸人所有ともに善管注意義務違反と判断される)
・落書きなどの故意による毀損
・ペットによるクロスの傷や臭い (ペットの飼育が禁止されている場合は、用法違反にあたる)
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クロスの小さな穴や破れはDIYでもOK!?
賃貸マンションの場合、自分での補修を一切禁じている物件もありますが、契約書を確認して厳しく規定されていない場合は、DIY補修を試みてみましょう。
退去後の立ち合い点検の際、明らかに補修したとわかるようなDIYの腕前では、せっかくの補修が無駄になり、業者による補修費用を請求されることもあるので注意しましょう。
釘穴・ネジ穴などは「穴うめキット」で補修!

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釘穴やネジ穴などの小さな穴は穴うめキットを使用して補修しましょう。
以下は補修の手順になります。
➀ 穴うめ材のノズルを外し、中栓も外し再度ノズルを取り付ける(ボトルに圧力がかかると中身が出るため注意する)。
➁ ノズルの先端をクロスの穴にあて、軽く押し出して注入する。
➂ 余分な穴うめ材を付属のヘラですき取り、きれいな水を含ませて絞ったスポンジではみ出た穴うめ材を拭き取る。
クロスの剥がれは「壁紙のりキット」で補修!

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窓やサッシ周辺のクロスは結露を放置していると剥がれが発生します。クロスの剥がれ補修には画像のような「壁紙のりセット」で補修ができます。
以下は補修の手順です。
➀ 補修するクロスや下地面の古いのりや埃・汚れなどを濡れた布などできれいに除去し、水分を乾燥させる
➁ 「壁紙のり」のノズルを外し、中栓も取り外し再度ノズルを取り付ける(中身が出ないように注意する)。
➂ 付属のハケやヘラを使用してクロスの剥がれ部分に薄く均一に塗る。
④ 剥がれた箇所を貼り合わせ、しばらく手で押さえる(壁紙に癖がついている場合はテープなどで仮押さえする)。
➄ はみ出たのりは乾く前に塗らしたスポンジできれいに拭き取る。
➅ 貼り合わせた部分に付属のローラーを転がせて密着させる(ローラーは隙間方向へ転がす)。
クロスの破れは「クロスエイド」で補修!

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クロスに何か硬いものが擦れた場合など破れてしまうこともあります。クロスの破れには「クロスエイド」という補修キットで補修することができます。
➀ 補修するクロス面の埃や汚れをきれいに拭き取り乾燥させる。
➁ 補修箇所より大きめにクロスエイドをカットする。

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➂ 補修箇所を隠すようにクロスエイドを被せてテープで仮止めする。
➃ 破れた部分より大きめにクロスエイドと重なった古いクロスを同時にカッターでカットする。

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➄ 仮止めテープを取り、下の古いクロスの切った部分と、クロスエイドの不要な部分を取り除く。

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➅ 剥がしたクロス部分にクロスエイドをはめ込むようにして貼る。
➆ ローラーで密着させる。
➇ 色の調整が必要な場合は、別売りの「クロス職人マニュキュアタイプ」で調整する。
子供の落書きの除去方法

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子供がいたずらしたクレヨンの落書きなどを消すには、消しゴムと塗って隠す塗料がセットになった商品が便利です。
消しゴムを使う要領で、落書きを擦って消しますが、あまり強く擦るとクロスが破れることがあるので注意しましょう。
消しゴムで消しきれなかった落書きは、付属のハケを使用して落書きかくしを均一に塗ります。
クロスの色が違う場合は、別売りの「クロスタッチ」で色を調整しましょう。

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下地(石膏ボード)まで届く損傷の補修方法
下地の石膏ボードまで穴が空いてしまった場合の壁の補修は、小さな穴ならメッシュシートを利用することもできますが、大きな穴なら石膏ボードを穴に入れて補修する必要があり、かなり難易度が高くなります。以下に2種類の補修方法以下や手順を解説します。
メッシュシート(リペアプレート)を使用する補修方法
〈用意する補修材や道具:リペアプレート・補修用壁紙・パテ・カッター・パテベラ・ローラー・サンドペーパー・スポンジなど〉

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➀ 壁の穴よりやや大きめのリペアプレートを選び壁の穴に当て、リペアプレートより10cm程度大きくカッターで壁紙に切り込みを入れる。
➁ 切り込みを入れた内側のクロス(穴の周囲)をきれいに剥がす。
➂ 穴部分の崩れかかった石膏ボードの破片を取り、穴部分にサンドペーパーをかけて凹凸をなくす。
➃ 穴を塞ぐようにリペアプレートを貼り付ける。

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➄ 貼ったリペアプレートの段差をなくすようにパテを塗り、パテベラで平らにする。
➅ パテを完全に乾燥させる。
➆ パテの乾燥後、サンドペーパーをかけて表面を滑らかにする。
➇ カット部分より大きめに切った補修用壁紙を貼り付ける。
➈ 既存の壁紙と補修壁紙の重なった部分をカッターでカットする。
⑩ 新しい壁紙のカットした周囲の部分を取り、貼り付けた壁紙をめくり重なった既存の壁紙もきれいに剥がした後、再び貼り付ける。
⑪ ローラーで圧着させ、はみ出したのりを濡らしたスポンジできれいに拭き取る。
補修用ボードとパテを使用する補修方法
大きな穴の場合は、木材で下地の補強をして補修用の石膏ボードを取り付ける作業が必要になります。
〈用意する補修材や道具:下地用木材・補修用石膏ボード・パテ・補修用壁紙・カッター・サンドペーパー・ビス・クロスのり・ローラー・スポンジなど〉

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➀ 壁の穴より10cm以上大きくカッターでクロスに切り込みを入れ穴周囲のクロスを剥がす。
➁ 穴の周りの石膏ボードを四角く切り、取り除く(穴は大きくなるが作業がしやすくなる)。
➂ 穴の大きさより長く(上下5cm程度)木材をカットし、穴の両サイド内側からはめこみ、ビスで固定する。
➃ 穴の大きさよりもやや小さく補修用石膏ボードをカットし、はめ込んだ木材の上にビスで固定する。
➄ 壁とはめ込んだ補修用石膏ボードの隙間をパテで埋め、乾燥させる。
➅ パテが乾燥してから、表面にサンドペーパーをかけ平滑にする。
➆ 補修用クロスをリペアプレートで補修の場合と同様に貼る。
リペア業者に依頼するメリットと補修費用
これまでご紹介したように、壁の穴の補修をDIYで行う場合はさまざまな補修材や道具が必要ですが、重要なポイントは既存の壁紙クロスと同じものを用意することです。
少しでも違った柄のクロスを貼ってしまった場合は、補修の跡が目立ち補修した意味がありません。特に賃貸住宅では補修の跡がわかる場合はさらに補修費用を請求されるため、二重の補修費用がかかります。
また、リペアプレートでの補修方法は比較的簡単ですが、壁の下地からつくるという作業は裏から手を入れて行うため大変難しく強度不足になりがちです。
補修後に外れてしまう可能性もあり、素人にはあまりおすすめできません。
比較的大きく空いた穴の場合は、リペア業者に依頼しましょう。
素人では難しい古い壁紙を探す作業も、業者なら古いカタログを入手することも容易です。
また、剥がした壁紙(穴の空いた部分の壁紙)を上手く再利用するということもできます。(クロスの破れや割れ目は、貼った上からシーリング材で埋める作業が必要)。
さらに、やはり素人のDIYとプロのリペアでは仕上がりが全く違います。
自宅の場合は、少々雑な仕上がりもDIYならではの味として楽しむことができますが、賃貸住宅の場合はそうはいきません。
賃貸住宅で壁に穴を空けてしまった場合でも、放置しておくと損傷が拡大し、退去時の原状回復費用も大きくなります。
比較的小さな損傷のうちにリペア業者に相談してみることをおすすめします。
リペア業者に依頼した際にかかる費用は、壁の穴の程度にもよりますが当サイトでは、補修1箇所につき、13,000円~(技術料)です。
費用の詳細は当サイトのトップページにてご確認ください。
退去時トラブルの解消方法
賃貸住宅にお住まいの場合は、退去時のトラブルをできるだけ避けたいものです。
そのためには、入居時から心構えをしておくことが大切です。
トラブルを未然に防ぐためのポイントを以下にご紹介します。
・賃貸契約書の内容をしっかり確認(原状回復における特約など)
賃貸契約書の内容は物件によって違いがあります。原状回復に係る特約などは特に注意して確認しておきましょう。
原状回復に係る特約は、「クリーニング特約」が最も多くなっていて、退去の際に室内の清掃を賃借人が負担するというものです。
クリーニング費用の負担割合も物件によって異なります(賃貸人が負担・賃借人が負担・クリーニング費用として賃貸人が○○円負担など)。
・入居する前に物件の確認を徹底し、チェックリストを作成
入居前から付いていた傷まで請求されたという事例もあるため、入居前に不動産会社の立ち合いのもと、室内の確認を徹底しておくことが重要です。
物件の部分別にチェックリストを作成し、入居前の状態を写真を撮って残しておくことをおすすめします。
マンションの壁紙をきれいに保つ方法
賃貸マンションでは、タバコのヤニによるクロスの変色や臭いの付着、結露を放置していたことなどによるカビの拡大、ペットが付けた傷や臭い、キッチンの壁の油汚れなども「善管注意義務違反」や手入れ不足とみなされ、賃借人にクロスの張替え費用の負担が発生します。
退去時の費用負担が大きくならないように、日頃から定期的にクロスの掃除を行いましょう。
・日常のクロスの掃除方法
壁クロスに付着する汚れの多くが埃です。最初は目立たない埃でも水分や油分を吸い込むことで、粘着性のある取れにくい汚れへと変化していきます。
そうなる前に、はたきを使って埃を除去しましょう。はたきの代わりに不要になったストッキングを棒に巻き付けて軽く壁面をなぞるのも効果的です(静電気が埃を吸着する)。
また、定期的に掃除機のブラシノズルで埃を吸い取りましょう。
・タバコのヤニの掃除方法
タバコのヤニで変色したクロスには、以下のようなヤニ専用の汚れ落としが市販されています。タバコのヤニの付着が酷くならないうちに定期的に拭き掃除することをおすすめします。

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・カビの発生を防止するには?
クロスのカビは、結露が多く発生するサッシ・窓の周辺や湿気の多い台所や洗面所の壁、日の当たらない部屋の家具の裏などに発生しやすくなります。
カビを防止するには、常に換気をして湿った空気を室内から放出するよう心がけましょう。
また、結露が発生した際はこまめに拭くことも大切です。
それでもカビが発生した場合は以下のようなカビ取り剤を使用してカビを除去しましょう。

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・キッチンの壁などの油汚れの掃除方法
キッチンの壁は、料理中に跳ねた油や煙や蒸気に含まれる油分が付着するため、クロスがよごれやすい場所です。油汚れも放置すると取れにくくなるので、こまめな拭き掃除をおすすめします。
油汚れは台所用の中性洗剤でも落とせますが、クロス専用商品も市販されています。
以下の商品は、油汚れやタバコのヤニ汚れが落とせるだけでなく、防汚コート剤が含まれているため、汚れが付きにくくなります。

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まとめ
賃貸マンションにお住まいの人は、退去時のトラブルを未然に防ぐためにも壁クロスが汚れないように定期的な掃除や傷を付けないように注意することが大切ですが、それでもうっかり傷付けたり穴を空けたりすることもあるでしょう。
賃貸マンションの場合はネジ穴や部分的な剥がれ以外のDIYはあまりおすすめできません。
是非プロのリペア業者に相談されることをおすすめします。